作:橙野ユキオ
現場で寝てしまうという失態を犯してしまった僕は、その日一人で寮に帰る気になれなかった。
こういう時は、あそこしかない。
「もしもし?今日、泊りに行ってもいい?」
「今日?いいけど、何もないで。」
結構そっけない返事が返ってきて、ちょっとガッカリした。
彼女の名は、由美。
僕にとって人生初の彼女だった。友人の紹介で知り合って付き合うことになり、半年ほどが過ぎていた。
僕の男女交際のイメージでは、付き合って半年って、もっとラブラブなイメージだったが、現実は違っていた。
由美は僕より二つ年上で看護師をしており、キャリアも長く、僕より稼ぐサバサバした女性だ。
僕は由美のことを女性として好きなのはもちろんだが、それ以上に社会人として尊敬していた。
彼女が男らしく、僕が女々しいというバランスだ。
由美のアパートに着くと、晩御飯の用意が既に出来ていた。由美は料理が得意ではない。
電話口の声で、僕の異変に気が付いたのだろうか。
「ただいま。今日はもうご飯が出来てて・・・・すごいね。」
「うん。まあ、たまにはね。」
一緒にご飯を食べ、そのあと二人でテレビを見て笑った。なんだか久しぶりに笑った気がした。
「なんだか今日は疲れたなぁ。」
「仕事って、だいたい疲れるもんやで。何かあったん?」
「いや、今日、現場で倒れちゃって・・・。」
「え?」
事の成り行きを話すと、由美は僕の身体のことを凄く心配した。
疲れが溜まっているのでは?病気なのか?怪我はしていないか?
おそらく何ともない事がわかると「大丈夫やんか。」と言って、僕からテレビに視線を移した。
翌朝、仕事へ行く準備をしていると、気分が悪くなった。吐き気がするとか、そういうことではない。
何だ?この重みは。
作業着に着替えた後、うずくまっていると由美が声をかけてきた。
「大丈夫?どうしたん?」
「いや・・・なんか・・・気持ち悪くて・・・」
「風邪かな?昨日薄着で寝てたし。何回か布団をかけたんやけど・・・」
「いや・・・・・・そういうことじゃない気が・・・・・・」
ドクン。
「なんだろう。なんなんだろう。これ・・・・」
ドクン。
「あれ?どうして・・・・・」
ドクン。ドクン。ドクン。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
何秒かの静寂の後、誰かが言った。
「もういいだろ、あんなの。」
由美ではない。隣で何かを喋っているようで、口は動いているが、由美の声は聞こえない。
「なんであんな奴のために頑張ってんだよ。」
「え?」
「大宮がムカつくんだろ?なんなら殺しちまうか?」
「お前は・・・誰だ?」
「俺はお前だ。」
これが僕とパニック野郎との出会いだった。
現場で寝てしまうという失態を犯してしまった僕は、その日一人で寮に帰る気になれなかった。
こういう時は、あそこしかない。
「もしもし?今日、泊りに行ってもいい?」
「今日?いいけど、何もないで。」
結構そっけない返事が返ってきて、ちょっとガッカリした。
彼女の名は、由美。
僕にとって人生初の彼女だった。友人の紹介で知り合って付き合うことになり、半年ほどが過ぎていた。
僕の男女交際のイメージでは、付き合って半年って、もっとラブラブなイメージだったが、現実は違っていた。
由美は僕より二つ年上で看護師をしており、キャリアも長く、僕より稼ぐサバサバした女性だ。
僕は由美のことを女性として好きなのはもちろんだが、それ以上に社会人として尊敬していた。
彼女が男らしく、僕が女々しいというバランスだ。
由美のアパートに着くと、晩御飯の用意が既に出来ていた。由美は料理が得意ではない。
電話口の声で、僕の異変に気が付いたのだろうか。
「ただいま。今日はもうご飯が出来てて・・・・すごいね。」
「うん。まあ、たまにはね。」
一緒にご飯を食べ、そのあと二人でテレビを見て笑った。なんだか久しぶりに笑った気がした。
「なんだか今日は疲れたなぁ。」
「仕事って、だいたい疲れるもんやで。何かあったん?」
「いや、今日、現場で倒れちゃって・・・。」
「え?」
事の成り行きを話すと、由美は僕の身体のことを凄く心配した。
疲れが溜まっているのでは?病気なのか?怪我はしていないか?
おそらく何ともない事がわかると「大丈夫やんか。」と言って、僕からテレビに視線を移した。
翌朝、仕事へ行く準備をしていると、気分が悪くなった。吐き気がするとか、そういうことではない。
何だ?この重みは。
作業着に着替えた後、うずくまっていると由美が声をかけてきた。
「大丈夫?どうしたん?」
「いや・・・なんか・・・気持ち悪くて・・・」
「風邪かな?昨日薄着で寝てたし。何回か布団をかけたんやけど・・・」
「いや・・・・・・そういうことじゃない気が・・・・・・」
ドクン。
「なんだろう。なんなんだろう。これ・・・・」
ドクン。
「あれ?どうして・・・・・」
ドクン。ドクン。ドクン。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
何秒かの静寂の後、誰かが言った。
「もういいだろ、あんなの。」
由美ではない。隣で何かを喋っているようで、口は動いているが、由美の声は聞こえない。
「なんであんな奴のために頑張ってんだよ。」
「え?」
「大宮がムカつくんだろ?なんなら殺しちまうか?」
「お前は・・・誰だ?」
「俺はお前だ。」
これが僕とパニック野郎との出会いだった。